2025年、K-POP第5世代の新しい顔として急成長しているILLIT(アイリット)。彼女たちは今、日本でも確実にブームの波を広げている。しかしほんの1年前、デビュー直後のILLITは激しいネット上の批判と“根拠のない炎上”の渦中にいた。その騒動はいったい何だったのか。どこから始まり、どう終わったのか。そしてなぜ今、彼女たちは再び支持されているのか。今回は、当時の流れを冷静に振り返りながら「一過性の事件」としての本質を整理する。

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デビュー直後から始まった“模倣論争”
ILLITはHYBE傘下のBELIFT LABから2024年3月にデビューした5人組ガールズグループ。サバイバル番組『R U Next?』で選抜されたメンバーによって結成され、デビュー曲「Magnetic」はリリース直後から世界中で話題となった。YouTubeでは数千万回再生を突破し、TikTokでは“Magneticチャレンジ”が流行。新人としては異例の勢いだった。
だがその華やかなデビューの裏で、SNS上ではある疑念が広がり始める。「NewJeansに似ている」「HYBEが自社グループをコピーした」という声だ。髪型やファッション、MVの雰囲気まで比較され、「ILLIT=模倣」というイメージが独り歩きした。特に、HYBE本社とNewJeansを抱えるADORのミン・ヒジン代表との経営的対立がメディアで報じられたことで、ファンの間でも“HYBE内戦”という文脈が強調された。
しかし、冷静に見ればILLITのコンセプトや音楽スタイルは、K-POPの中で一般的な「Y2K」「ナチュラルガール」路線の延長にすぎない。直接的に誰かを真似た証拠はなく、映像・音楽ともに制作チームも異なる。つまり、模倣論争はファンダム同士の感情的対立が作り出した幻影だった。
“叩き”を生んだ構造とSNSの拡散力
現代のK-POP炎上は、数人の投稿が数万件に拡散されるSNS構造が原因で爆発的に広がる。ILLIT叩きの中心となった投稿の多くは、海外掲示板や匿名アカウント発信で、誰が言い始めたのかすら不明確だった。比較画像の一部は切り抜きや合成、あるいは照明や角度を変えた映像を並べただけのものも多く、事実確認が行われないまま“証拠”のように扱われた。
SNSのアルゴリズムは「強い感情の投稿」を優先的に拡散する。怒りや対立を煽る投稿ほど目立つ構造の中で、ILLITは理不尽なほどの攻撃を受けた。ファンの間では「まだデビューしたばかりの少女たちに何を求めるのか」という声も上がったが、炎上の勢いは止まらなかった。メンバー本人たちは沈黙を守り、事務所BELIFT LABが代わりに「虚偽情報の拡散に対し法的措置を取る」と声明を出したのは4月下旬のことだった。
BELIFT LABの対応と沈静化
BELIFT LABの対応は迅速だった。同社は誹謗中傷投稿の証拠を収集し、複数の悪質アカウントに対して告訴を実施。声明の中で「事実無根の主張によってメンバーの名誉が損なわれている」と明言した。この動きにより、一部メディアは「ILLIT叩きは行き過ぎた」という論調に変化し、炎上は徐々に沈静化していった。
また、ファン層の中でも“冷静な支持層”が育ち始めた。「彼女たちは被害者だ」「音楽とパフォーマンスで評価すべき」という意見が増え、SNS上の空気が変わり始めた。特にライブパフォーマンスでの安定した歌唱とチームワークが再評価され、「新人離れした実力」と称されるようになる。
日本での再評価と人気の逆転現象
2025年に入ると、ILLITの勢いは韓国を越えて日本に波及した。「Magnetic」がTikTokで再バズを起こし、Z世代を中心に人気が拡大。さらにセカンドシングル「Lucky Girl Syndrome」もSNSトレンド入りし、テレビ番組やファッション誌での露出も急増した。
日本では、昨年の炎上を知っている層ほど「思ったより良いグループだ」「叩かれていたのが不思議」という反応が多い。これは、初期に形成されたネガティブイメージが、時間の経過とともに“過去の一過性の事件”として整理された証拠でもある。彼女たちの笑顔や真摯なステージが、その印象を確実に塗り替えていった。
一過性の炎上が教えてくれたこと
ILLITに対する炎上は、根拠よりも感情が先行した典型的なSNS時代の現象だった。匿名性とスピードが結びついた結果、真実よりも“噂のほうが早く拡散される”という構造が浮き彫りになった。彼女たちはまさにその犠牲者だったといえる。
しかし、同時にこの経験が彼女たちを強くした。炎上を経てメンバーはSNSで過度に反応せず、パフォーマンスと音楽で信頼を回復する姿勢を貫いた。結果的に「誠実に努力を続ける姿」がファンの共感を呼び、グループのストーリー性を深めた。批判の声はいつの間にか応援に変わり、いまでは“逆風を追い風に変えたグループ”と称されている。
2025年、ILLITの本当の始まり
今年に入り、ILLITは韓国だけでなく日本でも確実に市民権を得ている。音楽番組出演や雑誌表紙、ブランドコラボも増え、炎上時に形成された偏見はほぼ払拭された。彼女たちの成長ストーリーは、K-POP業界が抱える構造的な問題――事務所間の対立、ファンダムの分断、そしてSNSの暴走――を象徴していた。
あの炎上騒動は、結局のところ「根拠のない集団心理の暴走」であり、アーティスト個人に罪はなかった。時間が経ち、ファクトと実力が明らかになるにつれて、虚像は静かに消えていった。いま残っているのは、音楽を通じて自分たちの色を確立した5人の姿だ。
2024年の炎上は、もはやILLITの歴史の“序章”に過ぎない。逆境を乗り越えた経験が、彼女たちの芯をつくった。2025年の彼女たちは、もはや誰かの影ではなく、ILLITというブランドそのものを確立している。ネットの騒動に翻弄された1年を超え、今ようやく「本当のデビュー」を迎えているのかもしれない。
