2025年、K-POPのガールズグループ勢力図が、再び静かに、しかし劇的に塗り替えられようとしている。
記憶に新しい2023年、世界的なムーブメントを巻き起こしたNewJeans(ニュージーンズ)。彼女たちが提示したスタイルは「ナチュラル」「静か」「リアル」。K-POPの常識だった”足し算の美学”を根底から覆し、派手さよりも透明感で勝負する“静かな革命”は、瞬く間に世界を魅了した。

画像: ADOR Co.,Ltd.
しかし、シーンの頂点に立ったはずの革命児たちが、外部の喧騒によってその活動のペースを緩めている間に、事態は大きく動いた。彼女たちが耕した豊かな土壌から、その空気を見事に受け継いだ次世代グループが、まるで待っていたかのように次々と芽吹いているのだ。
その中心にいるのが、UNIS(ユニス)、ヒッジス(HITGS)、そしてH2H(Hearts2Hearts)だ。
彼女たちは、まるでNewJeansが灯した革命の炎を聖火リレーのバトンのように引き継ぎ、それぞれの解釈で進化させようとしている。今、K-POPは「静けさ」と「リアル」を最も鋭い武器とする、新しい時代へと確かに突入している。一体、何が起きているのだろうか。
原点にして革命:NewJeansがK-POPに刻んだ「静けさ」という衝撃
NewJeansが登場したとき、K-POPファンはおろか、音楽シーン全体が衝撃を受けた。
これまでガールズグループの成功法則とされてきた、激しいシンクロダンスや煌びやかなハイブランド衣装ではない。彼女たちは、素顔に近い表情と、まるで練習風景を切り取ったかのような自然体のパフォーマンスで勝負したのだ。
スニーカーで軽やかに踊り、ふとカメラを見つめて、屈託なく笑ったり、少し照れたり、時には涙ぐんだりする。その一つ一つが過剰に演出されたものではなく、驚くほどリアルで、観る者の心を直接揺さぶった。ファンが感じたのは「普通の、でも最高にクールな女の子がそのままスターになった」という、かつてない感覚だった。
その新鮮さが、作り込まれた完璧なK-POPの世界観に、知らず知らずのうちに飽きていた世界中のファンの心を鷲掴みにしたのだ。
音楽もまた、革命的だった。「Hype Boy」や「Ditto」に代表される楽曲はどこまでもミニマルで、心地よい余白がある。どの曲も囁くように静かに始まり、感情が爆発するような派手なサビやダンスブレイクを迎えることなく、ふっと終わる。でも、聴き終わったあとに、なぜか心に深く、長く残る。
NewJeansが生み出したのは、鼓膜を揺らすK-POPの“音圧”ではなく、心に染み渡る“余韻”だった。この「静かで透明な革命」が、後に続く第5世代の新たなスタンダードを、そして彼女たちの不在の間に、その空気を吸って育った新しい才能たちが躍動する土壌を作ったのだ。
UNIS(ユニス):静けさを受け継ぐ「多文化的なリアル」
UNISは、人気サバイバル番組『Universe Ticket』から誕生した精鋭8人組。韓国、日本、フィリピン出身のメンバーが集う、国際色豊かなバックグラウンドを持つ。
彼女たちの魅力は、清潔感と柔らかな雰囲気を兼ね備えたビジュアル、嘘のない素直な表情、そして感情を包み隠さないパフォーマンスにある。どこを切り取っても「自然」という言葉がこれほど似合うグループはいないだろう。
リーダーのヒョンジュが見せる包容力のある安定感、コトコ(日本出身)の指先まで神経が行き届いた繊細な表現力は、すでに多くのファンの間で高く評価されている。ゲリーの太陽のような明るさとエリシアの絵画のような純粋さもまた、NewJeansが提示した“等身大の魅力”を確かに思わせる。
彼女たちのMVは、日常のありふれた風景をそのまま切り取ったかのような、優しくノスタルジックなトーンで描かれる。派手なセットやCGよりも、メンバー間の視線や息遣いといった“感情の余白”で魅せるスタイルが最大の特徴だ。これはまさに、NewJeansの空気感を2025年のグローバルな視点で翻訳したグループといえるだろう。
UNISの強み、それは「多文化的なリアル」だ。韓国の感性だけでなく、アジア全体の多様なカルチャーを無理なく自然に融合させており、その姿は国境を超えて幅広い共感を集めている。この点で、NewJeansの持つ「普遍的な透明感」を、よりインターナショナルな存在へと進化させたのがUNISなのかもしれない。
ヒッジス(HITGS):計算された“自然体”が武器の戦略家
2025年にシーンに現れたヒッジス(HITGS)は、まさに“NewJeansの次世代”というコンセプトを深く理解し、戦略的に構築されたグループだ。彼女たちのスタイルは、いわば「リアルを演じる、究極のリアル」。
メイクは限りなく薄く、ファッションもストリート感のあるシンプルさ。その佇まいは一見すると何気ない日常そのものだが、その実、すべてが緻密に設計されていることに気づかされる。
MVの舞台は放課後の教室や街角、ありふれたカフェといった“どこにでもある時間”。しかし、映像を支配する光の柔らかな使い方や、被写体との絶妙な距離感を保つカメラワーク、そして心を落ち着かせる音の余白までが、完璧にデザインされているのだ。それはまるで「作り物のように美しい、本物のリアル」とでも言うべきアート作品のようだ。
ヒッジスの楽曲は、R&BやUKガラージュといったジャンルをベースに、軽やかでありながら深みのあるサウンドを展開する。誰もが聴きやすく、それでいて音楽的な芯を感じさせる。NewJeansが持っていた“軽やかな知性”を、よりモダンで都会的なサウンドへと進化させたような印象を強く与える。
彼女たちは、「自然であること」を一つの強力な戦略として使いこなしている。この“設計された無防備さ”こそが、情報過多の時代に疲れた若いファンたちを今、最も強く引き寄せている理由なのだ。
H2H(Hearts2Hearts):ネオポップで描く「理想のリアル」
H2Hは、大手SMエンターテインメントが2025年に満を持して送り出した新星だ。都会的で洗練の極みにあるビジュアル、ネオポップと称される独創的な音楽、そして息をのむほど美しい映像美。そのすべてが最高品質でありながら、不思議と人間味や体温を感じさせるのが彼女たちの特徴だ。
デビュー曲「The Chase」は、懐かしいY2Kテイストとどこか未来的なシンセサウンドを掛け合わせた独自の世界観で、公開直後から大きな注目を集めた。MVの構成はハイブランドのファッション誌のようでありながら、メンバーが見せる感情表現は驚くほどリアル。視線や指先の動きの一つひとつに、台本にはない“生の温度”が確かに宿っている。
H2Hは、NewJeansが生み出した“ナチュラル”という概念を、さらに抽象的かつ芸術的なレベルへと昇華させている。生々しいリアルというよりは“誰もが夢見る理想化されたリアル”を描き出し、現実と夢の心地よい中間を浮遊するような特別な感覚をリスナーに与える。その絶妙なバランス感覚が、Z世代だけでなく、かつて夢見た未来を思い出すミレニアル世代の心にも深く刺さっている。
なぜ今「静けさ」が時代の最強の武器になったのか
SNS全盛の現代、私たちは常に大量の刺激を浴び続けている。目を引くための過激な映像、強い言葉、BPMの速い音楽。そんな情報と音の洪水の中で、私たちの心が本当に求めているのは、「心から落ち着ける、信頼できるリアル」ではないだろうか。
共感への渇望:完璧すぎるアイドルへの「憧れ」から、隣にいてくれそうな存在への「共感」へと、ファンの求める関係性が変化した。 情報過多への疲れ:強い刺激に慣れきった脳と心は、逆に何も足さず、何も誇張しないミニマルな表現に安らぎと新しさを見出す。 本物志向:作られたストーリーよりも、不完全でも正直な姿にこそ「本物」の価値があると考えるZ世代の価値観が、そのままエンターテインメントの評価軸となった。
NewJeansのように、ありのままでいることの美しさを教えてくれる存在。UNISやヒッジス、H2Hがこれほどまでに支持を集めるのは、彼女たちがその“静かな安心感”を確かに持っているからだ。
NewJeansの今後とK-POPの未来
当事者であるNewJeansは、たしかに今、少し静かだ。しかし、その静けさは決して終わりではなく、次の章へと向かうための準備期間なのかもしれない。シーンに自分たちの模倣者が溢れたとしても、最初にその扉を開け、時代そのものを生み出したのは間違いなく彼女たちだ。ファンの心には「色々あるけど、やっぱりNewJeansが原点」という感覚が、リスペクトとして根強く残っている。
次に彼女たちが私たちの前に姿を現すとき、求められるのは過去のヒットの“再現”ではないだろう。リアルを描いたその先、つまり「現実と感情の境界線すら溶かしてしまうような、全く新しい表現の再発明」だ。そして、NewJeansはその革命を再び起こせるだけのポテンシャルを秘めている。
静けさこそが、次の時代を動かす鼓動
NewJeansがシーンに残した影響は、一過性の流行ではなく、一つの揺るぎない文化になった。その文化を、UNISがグローバルで多様な自然体として見せ、ヒッジスがリアルを緻密な戦略へと変え、H2Hが誰もが夢見る理想のリアルとして描く。驚くべきことに、この3組は、まるでNewJeansという幹から三方向に伸びていった、未来の進化図そのもののようだ。
K-POPの世界は常に残酷なほどスピードが速い。真似される者が、最初に時代を変えた本物の証明だ。そして、模倣が溢れかえったときこそ、その「原点」の真価が試される。
静けさで革命を起こしたNewJeans。その沈黙の間に、新たな使命を帯びて動き始めたUNIS、ヒッジス、H2H。
2025年のK-POPを動かしているのは、もはや派手な音圧ではない。リスナーの心に深く響く、確かで力強い「静けさ」だ。そしてその静けさの中にこそ、私たちは次の時代の、新しい鼓動を聴くことになるだろう。
